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下川町のいろんなことを知ってみよう!

#1 くらしごとツアー ~山の現場から、製材まで~

前回記事はこちら

出身や大学の専攻もバラバラな、わたしたち大学生5人。森林や建築、まちづくりや移住、それぞれの興味をもって、このツアーに参加します。

わたしたちの目線から見る下川町と林業。そこには、はっとするような新しい発見、そして自分の暮らしに持ち帰りたい言葉、忘れられない出会いや時間が待っていました。

旅のはじまり

3月のある日。札幌から特急に乗ること2時間半。下川町のちょっと手前、名寄駅に到着しました。

事前にオンラインで顔合わせはしていたものの、実際に会うのは初めてというメンバーもちらほら。大石陽介さんのガイドで、2泊3日のツアーがスタートです。

大石陽介さん

静岡県出身。大学卒業後は小学校教員として勤務。その後、JICA海外協力隊でモンゴルへ赴任。帰国後、日本の地方に興味を持ち、下川町との出会いから2020年に同町地域おこし協力隊に。現在は、「ぐるっとしもかわ」の名称でツアー事業と宿泊事業に加え、一棟貸しの宿「A-frame cabin iwor」の運営も手がける。

まちへ一歩、足を踏み入れて

下川町内へ移動しはじめに訪れたのは、まちおこしセンター「コモレビ」。下川町の森のシンボルカラー「SHIMOKAWA GREEN」で彩られた、木のぬくもりを感じる空間。足を踏み入れただけで、歓声が上がりました。

奈須さんと合流し、オリエンテーション。改めて、下川町の概要や、このツアーの目的について共有されました。

「下川町の移住者は増えているけど、まちの求人はなかなか埋まっていかない。どんな切り口で若い人たちに伝えていったらいいのか、そのヒントをみんなから聞かせてほしいと思っています」と奈須さん。

しもかわ森林文化ミュージアムという魅力的な取り組みがある一方で、現実的な課題として無視することのできない次世代の担い手育成。若い人に情報を届けるには何が有効なのか、下川のどんな良さをどう伝えていけばいいのか、そんなことを考えていきます。

お腹も空いたところでランチタイム。最初のしもかわごはんは「ケータのケータリング」。下川町で生まれ育ったケータさんがお弁当を届けてくださいました。

「まちのスーパーがなくなって、冠婚葬祭のお弁当が町外に注文されるようになる。地域の中で経済を回したいと思った。そして移住者が増えていくうちに僕も何かできることはないかなって」と、ケータさん。ずっしりと盛り付けられた彩り豊かなお弁当からも、ケータさんのエネルギーを感じました。

早速素敵な方に出会ったわたしたちは、ますますこの後の出会いに胸が高鳴ります。

山の現場から、製材まで

コモレビを後にし、車に乗り込んだ私たち。市街地を離れ、あたりは木々に囲まれていきました。

出迎えてくれたのは、森林組合の板橋さん。山の現場の見学です。

この日に行っていたのは、木の切り出し作業。

「トントンしてる……!」

わたしたちの目を丸くしたのは、”グラップル”という木を掴むことに特化した建設機械。まるで人間の腕のような関節があり、手首のようなしなやかな動き。トントン、と複数の木をまとめて揃えるという、意外にも繊細な作業に驚きました。

「もともと僕は林業がやりたくて」と板橋さん(写真左)。「実際に働いてみて、林業には正当な価値がつきにくいことを感じたんですよ。だからやっぱり、なによりも効率を重視する業界。働いている人が意識を変えていかないと、世代交代も難しいのかもなあ」

やわらかな口調ながらも、課題意識を持って話す板橋さん。林業の出発点ともいえる山の現場が抱える、業界内の経済循環のジレンマがありました。

森を出て、次にお邪魔したのは森林組合北町工場。目の前にそびえ立つ5基の製炭窯からは、歴史を感じました。

昭和56年、下川町では湿雪被害が発生。被害総額は約3億5000万円にのぼり、被害木の処理が緊急課題となったそうです。試行錯誤の後に、解決策となったのが「木炭製造」。

木炭製造の過程で発生する木酢液は住宅の壁の防腐剤へと、オガコは酪農家の牛の寝床へと、ムダなく資源を活用する、「ゼロエミッション」の取り組みを、30年以上前から行ってきています。

先進的な取り組みに驚くわたしたちの目に飛び込んできたのはこの言葉。なんだか今でも忘れられません。

やや涼しくなってきた風に当たりながら向かったのは、三津橋農産北町工場。森から木を切り出した後に、製材をしていく会社です。

丸太の状態で運ばれてきた木材は、機械の手であっという間に角材の形へ。大きな機械音が鳴り響く中、工場内は木のあたたかな香りで満ちていました。

わたしたちが思わず興奮してしまったのは、山盛りのチップ。「ダイブして寝てみたい」などと言い合いながら、その香りと肌ざわりを堪能。これには工場長も苦笑い。

なんと、ある大手ハウスメーカーの国内産木材は全て三津橋農産で生産しているとか。「下請けがなくなったら、大手はやっていけないからね。今までずっと、厚い信頼関係を築きながらやってきた」と工場長。

1日目は、山の現場から製材までを見学。”林業”の輪郭が見えてきたような気がします。

暮らすように滞在する 長い下川の夜

見学を終え、1日目の宿へチェックイン。市街地を少し奥に入ったところにある「ヨックル」へお邪魔します。

家のようなあたたかな居心地の良さと、思わず声が漏れてしまうほどの素敵な造りに大満足。移動の疲れもあっという間に癒されました。

そしてここでも感じられる下川の森林の恵み。木質バイオマスエネルギーによる熱供給システムを導入している室内は、部屋の中で大の字で寝そべりたくなる、気持ちの良い温もりでした。

この日の夜は、まちのみなさんも来てくださり交流会。そして2次会に3次会へと流れ、眠らない下川町を知りました。

1日目から盛りだくさんのくらしごとツアー。下川町の森林の豊かさを五感で感じ、林業の仕事を担うみなさんのプロ意識のもとのかっこよさや、仕事への思いを知った日になりました。

長い夜を過ごした1日目。2日目の出会いもますます楽しみです。

文:谷郁果 写真:小室光大


3月15日-17日に開催された、しもかわ森林文化ミュージアム・くらしごとツアー。札幌圏の大学生5人が、林業や移住者、まちづくりや暮らしと仕事などそれぞれの視点で下川町に滞在しました。忘れられない景色や言葉、人に出会い、そして林業をはじめとする下川町の現状を知ったわたしたち。大学生5人のうちの一人でもあり、町内に祖父母が暮らす、北海道大学教育学部3年のわたし、谷郁果が、5回にわたりツアーの記録を連載していきます。